[T-9] 盤と駒を渡して、ゲームの原理と局面を共有する-社長様を特許戦略の世界にいざなうプロセスの王道-

本記事は、パテントサロン®様の知財系ライトニングトーク #34 拡張オンライン版 2026 秋 に参加しています。

目次

緒言

1. 息子を将棋好きにする試みに挫折した経験

2. 息子を将棋の世界にいざなった王道のプロセス/盤と駒を渡して、ゲームの原理と局面を共有する

3. 「王道」を特許戦略に応用

4. 社長様も将来関係しうる知財デューデリジェンス(知財DD)

結語

緒言

 副題の「社長様」は、筆者がこれまでにお話しした中小企業経営者の方々をイメージしています。中小企業経営者の方のほとんどは、自社の商品・サービスの内容と売上げの拡大に並々ならぬこだわりと情熱をもっていらっしゃる一方、なかなか特許による商品・サービスの保護には目を向けられないのが実情とみられます。そもそも売上げが立ち、利益が出なければ、経営が立ち行かないため、その姿勢は合理的です。自社商品の特徴を支える技術を保護し、競合企業による模倣や追随を抑えることは、特許出願・権利化の重要な目的の一つであり、競合企業に「この特許があるから参入するのをやめよう」と判断させられたら、それは一つの成功といえます。そうは言っても、その成果を具体的に認知する機会はほとんど訪れませんし、ましてや数値化して評価することは困難であるため、優先度が低くなるのは必然です。しかしながら、中小企業も事業規模が大きくなり、経営上の経験が蓄積されていくと、数値にはできないけれども、競合企業の参入を封じることができたメリットを実感されるフェーズが訪れると思います。また、一方で、他社特許にできるだけ早く気づいて、事業を阻まれるリスクをダメージが小さいうちに管理できれば、特許の事業に対する貢献度は大きくなります。そうなるよう願って本記事を執筆いたします。

 なお、会社の規模によらず、特許に深く関与される機会がこれまでなかった上層部の方々にも価値をご提供できるような記事を意図しておりますので、副題の「社長様」を適宜読み替えてご笑覧いただければ幸いです。

1. 息子を将棋好きにする試みに挫折した経験

 ここに株式会社ビバリーの「はじめてでもわかるマスター将棋Ⓡ」という商品があります。私が息子の6歳の誕生日にプレゼントとしてあげたものです。実は、その前の年の5歳の誕生日には、他社の将棋盤と駒のセットを与えたのですが、なかなかスムーズにスタートを切れず、タンスの上で埃をかぶってしまった経験がありました。5歳の彼はまだ小さすぎて、他のおもちゃと比較したとき相対的に興味が向かなかった、ということだったのでしょう。もう少し掘り下げると、まず将棋は駒の種類が多いところからして複雑で難しいため、とっつきにくい印象が先に立ち、好奇心やわくわく感で乗り越えられないほど敷居が高かったのだと思われます。

2. 息子を将棋の世界にいざなった王道のプロセス/盤と駒を渡して、ゲームの原理と局面を共有する

 前年の失敗を踏まえ、再チャレンジにあたっては、まず、6歳の誕生日より前にオセロ(登録商標、一般名:リバーシ)を与えました。駒の種類が少なく、ルールがシンプルなオセロ(登録商標)で対局型のボードゲームに慣れることが、下準備として大事と考えたからです。

 オセロ(登録商標)で対局型ボードゲームに慣れさせたところで、次に、件の「はじめてでもわかるマスター将棋Ⓡ」を某通販サイトで見つけて購入しました。口コミの評価が高く、販売数が多かったこともあり、迷わず選びました。使った感想を先に述べると、その名の通り、初めて将棋に触れるところから遊び方をマスターするまでのプロセスが考え抜かれた商品で、筆者も大満足することになりました。息子が、自分から積極的に将棋をしようと誘ってくるようにまでなったのです。

 その変化には確かに理由があります。それは、商品に同梱されていた次に掲げるアイテムが狙い通りに機能したことです。

①将棋の楽しさと、戦略的思考が身につくというメリットを伝える趣旨のマンガの小冊子

②初期の駒配置がます目の隅に小さく描かれた将棋盤

③駒の動き方が描かれた駒

④図をふんだんに使った、子どもに適した分量の解説書(上記小冊子に収録)

⑤練習問題(一手詰めの詰将棋、上記小冊子に収録)です。

 それぞれの役割を整理すると、次のようになります。

i)マインドセットを醸成する(目的を与える)/マンガの小冊子

ⅱ)自ら思考するための手段を与える/将棋盤と駒

ⅲ)駒の種類、初期配置、動きのルール、ゲームの目的(勝敗の決まり方)などを教える/解説書

ⅳ)初歩から局面の見方のケーススタディを提供する/練習問題(一手詰めの詰将棋)

 本商品は深く考え抜かれた導線設計に基づき構成され、洗練されたセットといえます。すぐ読める分量でポイントを押さえたマンガの小冊子は独立した商品としてほかに見当たらないですし、解説書も単行本だと5、6歳児にはボリュームが大きすぎて読めません。一手詰めの詰将棋の練習問題を探すのは親にとって結構な手間ですし、時間をかけて選んだ本が5、6歳児に受け入れられるかどうかはチャレンジです。それらが全部一セットにまとまっているのは、親にとって至れり尽くせりで、とても助かる商品です。

背景を詳しく調べてはおりませんが、このセット商品は、改良を重ね、いくつかのステップを経て生まれた努力の結晶なのではないかと筆者は想像しております。とは言え、この商品が作られる前から、子どもに将棋を習得させるにはだいたいこの様な手順で、という定番の型(王道)があるように思われます。実は、筆者もそれからあまり外れないルートを祖父や父に導かれて将棋に親しむようになった記憶があるからです。そして、この導入プロセスは、社長様を特許戦略の世界にいざなうために、当社の特許戦略チャート®を活用する際にも応用することができます。

3. 「王道」を特許戦略に応用

 話は特許戦略に移ります。IPランドスケープ(IPL)関連のウェビナーのコメント欄やアンケート結果等で、「経営層に刺さるプレゼンをするにはどうすればよいでしょうか」、「経営層の琴線に触れる提言をするにはどうすればよいでしょうか」、という参加者の願望を時々目にします。確かに優秀なコンサルタントの方であればそれを提供できるかもしれません。しかし、きっかけを与えられたとしても、その先が続かず終わってしまったという経験談を複数の企業の知財部管理職の方から何度か伺ったことがあります。熱を持続させるには、そのための仕掛けと継続的かつ積極的な取り組みが大事と思われます。ところが、実際はそれが不十分で、一時的な盛り上がりの後にフェードアウトしてしまうケースが多いのではないかと推察されます。IPLの成果に満足できていないという声を聞くことが多く、展示会などでは成功事例の紹介のセミナーに参加者の長蛇の列ができるからです。

 本記事で注目したいのは、初めての分野で自ら考え始めるための導線です。主体が誰であっても、何かの世界に初めて入門するときに、スムーズに入れるようにする導線設計の王道は存在し、特許戦略の世界も例外ではないと筆者は考えています。

 特許戦略チャートⓇは、特許戦略をボードゲームとして観念している点が、将棋と深いところで重なっています。

ⅰ) 目的を明確にする/社長様自身の経営課題と、特許を考える目的を共有する。

ⅱ) 思考の手段を渡す/自社・競合の商品と特許を配置したチャートを用意する。

ⅲ) 原理・ルールを共有する/各図形の意味、権利範囲、競争上の位置関係の読み方を説明する。

ⅳ) 局面から学ぶ/実際の事業やそれに近い事例で、選択肢とその影響を思考し、共有する。

 さらに、その後も情報を更新し、繰り返し局面を検討することで「熱を持続させる」という課題の克服にもつながります。

 特許戦略チャートⓇを構成するPC画面上の2次元座標が盤、中心点とそこから放射状に伸びた扇形が駒に相当するのは共通点です。一方、将棋との相違点もあります。ゲームの原理はマラソンとビーチフラッグを足して2で割ったようなレースにおけるポジション争い、ゲームの目的(勝敗の決定要素)は観客に相当する顧客から認知・支持を得ることであるという点は、戦国時代の合戦とビジネス上の競争の本質的な相違を反映しています。現代社会の競争は、ときに戦いと表現されますが、観察してみるにレースのような色合いが濃いのではないでしょうか。社員個々人の出世競争然り、生成AIに代表される様々な分野の技術面の開発競争然り、ビジネス上の戦いは、決戦で敵を打ち負かすというよりは、優位なポジションを長く維持し続けることが本質です。これらを表現できる特許戦略チャートⓇは特許戦略の運用プロセスを提供する仕組みであり、特許戦略の運用を支える基盤となり得ます。

4. 社長様も将来関係しうる知財デューデリジェンス(知財DD)

 日常的な経営とは別に、中小企業経営者の方が特許戦略に関心を向ける機会として、M&Aの話があったときが挙げられます。ここで、商品・特許の関係についての知見を社内で日常的に共有していれば、M&Aの場面では自社の強みやリスクを説明する材料になる場合があります。M&Aで、よくあるケースは大企業による中小企業の買収です。中小企業経営者の方の立場では、売却にあたり企業価値をいかに高められるかが交渉の焦点となります。その場面で、自社が保有する特許や、自社の主力製品に影響しうる競合企業の特許の存在状況は重要な検討対象になります。

 うまくいけば、その情報が企業価値の向上に寄与する可能性がありますから、プラス要素をしっかりアピールすることが大事です。マクロ分析では解像度が粗く、事実を具体的かつ明確に把握するために十分ではありません。ストーリーを練っても、裏付けがマクロ分析だけだと絵に描いた餅のように見られかねません。裏付けとして、プラス要素の特許を具体的に示すと共に、やや引いたスコープで俯瞰し、周辺状況の中でプラス要素の特許にしっかりスポットライトを当てることが望まれます。特許戦略チャートⓇはそれを可能にします。やや引いたスコープで俯瞰する手法に関して、詳しくはブログ記事「[T-6] 特許がもたらす企業間の競争をゲームにする手段」(左の画像)をご参照ください。

 一方、買収する大企業側は、どう考えているでしょうか。M&A案件で知財に関する調査・分析を行うとき、まず買収候補の探索のフェーズでは、特許のマクロ分析などを活用したIPLを行い、次に買収先候補として特定された企業を精査するフェーズでは知財DDを行います。知財DDでは、その特定された企業の特許を調べるのはもちろんですが、それだけ調べれば足りるわけではなく、その競合との関係まで把握するニーズがあります。そうすると、ミクロ分析に加えてセミミクロ分析のニーズも存在します。番号、企業名、発明の名称、要約及びクレームなどの文字情報がびっしりと並んだリスト形式に情報を整理しただけでは、複数の特許と製品が織りなす競争状況を一目で共有しにくいという限界があります。そのリストは、そこに存在する局面を一定の側面から切り取った情報であることは確かですが、状況を俯瞰して把握するのには向かないからです。では、どうすれば意味を汲み取ることができるでしょうか。

 ゲームの構造をモデル化し、ゲームの原理に基づいて盤と駒を配置すれば、局面を解釈することができます。そのための手段が、セミミクロ分析を行う特許戦略チャートⓇです。ただ、セミミクロ分析は個別のクレーム等の確認を伴うため、対象を広げると相応の人手と時間を要するので、重点的に分析する競合領域の選択と集中が大事になります。セミミクロ分析する領域の選択と集中に関しては、ブログ記事「[T-7] オープン・クローズ戦略にも資する特許セミミクロ分析」(左の画像)をご参照ください。

結語

 本記事では、社長様、すなわち中小企業経営者の方と特許戦略との関わりを取り上げ、特許戦略の世界に足を踏み入れる場面と、M&Aの話が舞い込んだ場面を想定して解説しました。中小企業経営者で直ちに特許戦略の重要性を感じていらっしゃる方は少なく、「将来、特許が必要になるかどうかはわからない」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかし、中小企業経営者の方には、新商品、競合企業の動き、提携やM&Aを検討する際に、特許という判断軸もぜひ加えていただくことをお勧めしたいと存じます。特許について検討するとき、一般的には多数の特許を対象としたマクロ分析から始めることが多いですが、経営判断にあたっては、マクロ分析から見つかった特許に関する解像度の高い情報、つまりミクロ分析及びセミミクロ分析に基づいたボードゲーム的思考が役に立ち、それを提供する手法として、当社の特許戦略チャートⓇがあります。特許に関する知識を仕入れ、ボードゲームのイメージに照らして様々なビジネスの実例をご覧になると、新たなビジネスチャンスの扉を開く力が磨かれることが期待されます。一度かじっておいて損はないと思います。お声がけいただければ所要時間15分間からレクチャーさせていただきますので、ぜひお問合せください。

本記事は、パテントサロン®様の知財系ライトニングトーク #34 拡張オンライン版 2026 秋 に参加しています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

株式会社デジタルキロン
代表取締役

目次