[T-6] 特許がもたらす企業間の競争の“構成原理”

目次

緒言
1.[結論]ゲームの構成原理をスポーツ競技にたとえると・・・
2.[類型]競争・戦いの概念的枠組みにおいて適合する分類は・・・
3.[目的]追求する便益とは・・・
4.[特徴]排他手段とその特性
結語

緒言

特許がもたらす企業間の競争とは、どのようなゲームなのでしょうか。その本質を理解することは、特許戦略を経営の言葉で語るための第一歩となります。本記事は、関連記事「[T-5] 特許がもたらす企業間の競争を『海戦モデル』で可視化する」を受けるとともに、「[T-3] 知財部管理職の方のIPLにまつわるお悩み解決策」を掘り下げる位置づけの内容です。よって、それらの記事を先に読んでいただくことをお勧めします。

[T-5] 特許がもたらす企業間の競争を『海戦モデル』で可視化する」では、特許がもたらす企業間の競争を可視化するモデルとして「海戦モデル」に辿り着いた経緯をご紹介しました。主体は意思決定者とそれを支える知財チーム、競争の実体である客体1は商品・サービス、それを保護する手段である客体2が特許――これらが海戦における艦隊司令長官と参謀たち、艦船、艦搭載の大砲に見事に対応することをお伝えしました。

本記事では、その「海戦モデル」の根底にあるゲームの構成原理について、さらに掘り下げて解説いたします。なお、現実世界の戦い及びスポーツ競技において先行(迎撃)/追走(追撃)の局面はしばしば生じるものであるため、海戦とスポーツ競技を重ねてイメージしながらお読みください。両者のイメージを往復することで、特許がもたらす企業間の競争の本質を理解する解像度が高くなります。

この構成原理を理解することで、特許戦略の意義を経営層や事業部門に説明する際の説得力が格段に高まります。「なぜ特許が必要なのか」という問いに対して、本質的な回答ができるようになるのです。

1.[結論]ゲームの構成原理をスポーツ競技にたとえると・・・

結論から申しますと、特許がもたらす企業間の競争というゲームの構成原理をスポーツ競技にたとえると、次のように表現できます。

(マラソン + ビーチフラッグ)÷ 2

これはどういうことでしょうか。

マラソンは、42.195kmという長い距離を走る中で、長時間にわたる競り合いが展開される競技です。一方、ビーチフラッグは、ライフセーバーが砂浜で行う競技で、合図とともに一斉にスタートし、限られた数の旗(フラッグ)を奪い合います。その際、フィジカルなコンタクトが起こる場合があります。(注:但し、激しいコンタクトを意図的にする行為はルール上禁止されています。)

この二つの競技を足して2で割ったものが、特許がもたらす企業間の競争の本質に近いのです。つまり、有利なポジションを奪い合う前提は共通で、マラソンの持久性とビーチフラッグのアグレッシブさの両方の要素を併せ持つゲームということになります。

商品・サービスのライフサイクルは数年から十数年、場合によっては数十年に及びます。この長いレースを走り続けながら、同時に、商品・サービスの優位なポジションを確保するための熾烈な争奪戦が繰り広げられているとみることができます。

ただし、この基本形にはつぎのようなバリエーションも存在します。

後継(駅伝)型:一つの商品・サービスから次世代の商品・サービスへとバトンを渡すように、事業を継承していくパターンです。ある商品のライフサイクルが終わりに近づいても、後継の商品・サービスが引き継ぐことで、企業としての競争力を維持し続けます。

チーム(ツール・ド・フランス)型:自転車ロードレースの最高峰「ツール・ド・フランス」では、エースを勝たせるためにチーム全体が機能します。同様に、企業においても複数の商品・サービスがポートフォリオとして連携し、主力商品等を支援するような競争形態が見られます。

2.[類型]競争・戦いの概念的枠組みにおいて適合する分類は・・・

では、特許がもたらす企業間の競争は、競争や戦いの概念的枠組みにおいて、どのような分類に適合するのでしょうか。

一言で表現するならば、「ポジション争い」です。

より具体的に言えば、連続的に移動しながらの相対的位置関係の優位性が勝敗を分ける競争です。ここで重要なのは「相対的」という点です。絶対的な位置や絶対的な成果ではなく、競合他社との相対的な関係こそが、この競争の本質を形作っています。

そして、この競争は原則として長期スパンでとらえる必要があります。プレイヤー、すなわち商品・サービスのライフサイクルをベースとした時間軸で考えなければなりません。

特許の存続期間は出願から20年です。商品・サービスのライフサイクルも、導入期、成長期、成熟期、衰退期という段階を経て、短くても数年、長ければ数十年に及びます。このような長期的な時間軸の中で、競合他社との相対的位置関係がどのように変化していくかを見据える視点が不可欠です。

特許戦略は、長期的なポジショニングを意識した戦略的思考が求められるゲームの典型といえます。

3.[目的]追求する便益とは・・・

特許がもたらす企業間の競争において、追求する便益とは何でしょうか。

究極的には、「売上げ増大」への寄与です。

[T-3] 知財部管理職の方のIPLにまつわるお悩み解決策」でも述べましたが、特許はゲームの「フィールド」と「キャラクター」の設定にあたり構成要素に相当する存在であり、売上げ・利益のようなKGIへの関与は間接的です。しかしながら、市場の競争に参戦するにあたり排他的効力を有する特許は欠くべからざる要素として事業に貢献しています。

では、特許がどのように売上げ増大に寄与するのか、そのフェーズの変化に沿った文脈を整理してみましょう。

差別化 → 認知の獲得 → プレゼンスの増大 → 圧倒的ポジションの確保

まず「差別化」の段階では、独自に開発した技術や機能により、競合他社との違いを設定します。自社商品・サービスの独自性を明確にすることで、市場における存在意義を確立します。また、将来の模倣を防ぐために特許を出願、権利化します。

次に「認知の獲得」の段階では、差別化された商品・サービスが市場で認知され、顧客に選ばれるようになります。特許で守られた独自の価値提案が、顧客の記憶に刻まれていきます。

続いて「プレゼンスの増大」の段階では、市場における存在感が高まり、業界内での発言力や影響力が増していきます。特許ポートフォリオの充実が、この段階を支える重要な要素となります。複数の商品・サービスによりラインナップを充実させ、それらを保護する特許も増やせば、いっそうのプレゼンス増大となるでしょう。

そして最終的に「圧倒的ポジションの確保」に至ります。競合他社が容易に追随できない地位を築き、市場における主導権を握ることができるのです。

マラソンにたとえるならば、この便益を具体的にイメージしやすくなります。すなわち、先頭もしくは先頭集団の目立つポジション(できれば先頭)を占め、それを長期にわたって継続することが目標となります。

マラソンのテレビ中継を思い浮かべてください。先頭集団の選手は、レースの大半の時間、画面に映り続けます。スポンサーロゴが入ったユニフォームは視聴者の目に繰り返し触れ、ブランド認知が高まります。一方、集団の後方に埋もれた選手は、ほとんど画面に映ることがありません。

特許がもたらす企業間の競争も同様です。先頭集団のポジションを長期にわたって維持することで、市場における可視性(ビジビリティ)が高まり、顧客からの認知と信頼を獲得し続けることができるのです。

4.[特徴]排他手段とその特性

最後に、特許がもたらす企業間の競争における排他手段、すなわち特許の特性について整理します。ここで取り上げるのは、「非唯一性」、「着脱・追加可能性」、「時限性」という3つの特性です。

実は、この3つの特性は、スポーツ競技のたとえには盛り込みにくい部分です。マラソンやビーチフラッグでは、選手自身の身体能力が競争力の源泉であり、着脱可能な装備や時間制限のある武器という概念は馴染みません。

しかし、海戦のたとえにおいては、これらの特性をうまく表現できます。それは、複数の戦艦に搭載されうる大砲の型式というイメージです。

非唯一性:特許は無体物であり、物理的な制約を受けません。一つの特許が複数の商品・サービスを保護することができますし、逆に一つの商品・サービスが複数の特許によって保護されることもあります。これは、同じ型式の大砲が複数の戦艦に搭載されうることと似ています。大砲(特許)は特定の艦船(商品・サービス)に固有のものではなく、必要に応じて配備される汎用的な装備なのです。

着脱・追加可能性:特許は、ライセンスによって他社に使用を許諾したり、譲渡によって権利を移転したりすることができます。また、新たな特許を出願・取得することで、保護の範囲を拡大することも可能です。競争環境の変化に応じて、特許ポートフォリオを戦略的に組み替えていくことができるのです。

時限性:特許には存続期間があります。出願から20年という期限が設けられており、その期間が過ぎれば権利は消滅します。これは、大砲にも耐用年数や旧式化という概念があることと重なります。新しい技術の登場により、かつては最新鋭だった大砲も時代遅れになっていきます。特許も同様に、技術の進歩とともにその価値が変化し、やがて権利期間の満了を迎えるのです。

このように、特許の特性を理解する上で、海戦における大砲のアナロジーは非常に有効です。参謀及び艦隊司令長官が各艦船の装備状況を把握し、戦況に応じて最適な配置を検討するように、知財担当者も自社の特許ポートフォリオの状況を俯瞰し、競争環境に応じた戦略的な運用を検討することが求められるのです。

結語

以上、特許がもたらす企業間の競争の構成原理について、ゲームの本質という観点から解説いたしました。

(マラソン+ビーチフラッグ)÷2」という式、「ポジション争い」という類型、「売上げ増大」への寄与という目的、そして「非唯一性」・「着脱追加可能性」・「時限性」という排他手段の特性――これらの要素が組み合わさって、特許がもたらす企業間の競争という特有のゲームが構成されているのです。

貴社の商品・サービスは、このレースのどのポジションにいるでしょうか?先頭集団の目立つポジションで走り続けているでしょうか、それとも顧客の目に映りにくい後方で追走を強いられているでしょうか?そして、状況を改善するために、特許をどのように活用できるでしょうか?

特許戦略チャート®は、このゲームの構成原理を踏まえた上で、海戦モデルを用いて競争の様子を可視化するツールです。詳細は、お問い合わせいただければ、個別にご説明いたします。まずは貴社の状況をお聞かせいただき、特許戦略チャート®がどのようにお役に立てるか、ご一緒に検討できれば幸いです。ご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

株式会社デジタルキロン
代表取締役

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