[T-5] 特許がもたらす企業間の競争を『海戦モデル』で可視化する

[T-5] 特許がもたらす企業間の競争を『海戦モデル』で可視化する             ___-経営層、事業部門が熱心に考える特許戦略の実現を目指して-

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目次

  • 緒言
  • 1.「特許戦略において、マクロ分析はオールマイティーか?」
  • 2.セミミクロ分析のヒント~合戦図屏風~
  • 3.特許がもたらす企業間の競争を特徴付けるキーワード
  • 4.辿り着いた競争モデルとは

緒言

事業会社の知的財産部で特許戦略、他社特許対策に携わられている実務家の皆様へ。本記事は、経営層や事業部門との情報共有に悩む知財担当者向けに、新しい特許戦略のアプローチを紹介いたします。

1.「特許戦略において、マクロ分析はオールマイティーか?」

結論から申しますと、この問いに関する筆者の回答は「否」です。このセクションでは、マクロ分析の限界を実体験から説明します。筆者が経験した最初の本格的マクロ分析の事例を通じて、マクロ分析が必ずしも万能ではない理由を明らかにします。

理由は、筆者の個人的な経験に基づきます。筆者が2008年に経験した最初の本格的マクロ分析のテーマはマイクロニードルというものでした。(ただし、マクロ分析として与えられたテーマですが、結果的にマクロ分析として成立したかどうかは微妙なものになりました。)マイクロニードルとは、華道の道具である剣山を微小化したような形状であり、生体親和性の素材で形成された多数の針状突起を皮膚の角層に突き刺す形で適用すると、針状突起が角層内で溶けて成分を放出するデバイスです。現在では化粧品として製品化されていますが、当時はまだどのメーカーからも製品化されておらず、研究段階でした。このテーマにつき、当時先進的だったテキストマイニングソフトを使用してパテントマップ集を作成せよ、というのが上司からの指令でした。

手始めに汎用の検索エンジンでインターネット上の情報収集をしてみたところ、情報発信していたのは数社しかありませんでした。次に、特許の検索を試みたところ、適切な特許分類は存在せず、少ない情報を基にキーワード検索で大きめの集合を作成し、テキストマイニングの機能を利用しながら目視判読した結果、できるだけ広義に解釈したのに、抽出できたのは100件余りでした。出願人のほとんどが聞いたことのない企業で、知っている企業は数社。しかも、各出願人の出願件数は多くて3、4件、大半は1件という状況でした。

出願人と出願年ごとの出願件数のような一般的なグラフ(パテントマップ)は閑散とした様子。結構な労力をかけて読み込んで、課題-解決手段のセットを作成したり、技術カテゴリーで独自に分類わけしたりしましたが、作成の過程で勉強した筆者自身以外の聞き手には理解しづらく、「ふーん」程度の反応。詳細を説明したくても、長くは聞いてもらえません。特長機能だった関連性チャートやヒートチャートは、1、2件の外れ値の影響を受けて、ちょっと変更しただけで配置が全体的にガラリと変わってしまうような状況で、明確な傾向やポイントを解釈しづらく、素直に納得のいく知見に落とし込むのは、なかなか無理がありました。多少強引に結論づけざるを得なかったというのが正直なところです。

その後、数々のパテントマップを作成してきた中で、そつなくこなせた事例の方が多いとは言え、振り返れば一発目で散々な目に遭いましたし、その後もニーズや期待を十分に満たせたとは言えない事例も一定数ありました。

クリアランス調査(侵害予防調査、FTO調査)に軸足を置いてやってきた筆者の立場からすると、実際にクレームを読んでいなければ自信をもって言いにくい部分があり、そうすると、主張の脆弱さは自分でもわかっています。1件の特許が多面的な内容を含むとき代表的な一面以外をカウントしないか、各面についてカウントするか、という実際の取扱い上の悩ましさもあります。

さらに、一般論として、分析者自身の知識のバックグラウンドや時間的制約の関係で、商品・サービスの情報が浅くならざるを得ず、その結果、特許情報に偏重すれば、裏付けが弱く、考察が上滑りなものとなる場合があることは否めません。

以上のような認識の下、マクロ分析は有用な場合もあるが、適切に行えない状況やニーズを満たせない状況もあるから、オールマイティーではない、というのが筆者の立場です。では、どうすればよいのでしょうか?

2.セミミクロ分析のヒント~合戦図屏風~

現状、マクロ分析はツールが広く普及して、作成技術が確立の域に達し、多くの場合、確かに価値を提供していることは事実です。とは言え、第二の問い「マクロ分析を補強、ひいては補完しうる他の手段は考えられないか?」には十分意味があります。そこで、筆者が思考しているのは、「セミミクロ分析」です。数百~数千件に及ぶ特許群を対象にするのがマクロ分析、実際の係争事案で1~数件を対象にするのがミクロ分析とすると、その中間の数十件レベル、スクリーニングの結果選別された重要な特許群を対象とする分析をセミミクロ分析と呼ぶことにします。

実際のクリアランス調査では、侵害リスクのある特許の抽出が業務フロー前半の目的であるため、公開段階の広いクレームの特許出願が少なくとも10件程度は見つかります。さらに、同じ製品領域の近い将来の研究開発にあたり留意するべき気になる周辺特許も少なくとも10~20件程度は存在します。

それらの特許群を、クレームの文言ベースで解釈して、要注意特許として追跡調査することは価値を提供する蓋然性が高いと言えます。リアルな競合相手の目障りな特許について、商品・サービスとの関連性を考察した知見は、研究開発部門、のみならず商品開発部門及び経営層にとって興味の対象であることでしょう。

つづく第三の問い「これらの関連部署と情報共有する手段として、何が好適なフォーマットとなり得るか?」その答えは、筆者がそもそもセミミクロ分析を着想したきっかけと重なります。

そのきっかけは「合戦図屏風」でした。合戦図屏風(かっせんずびょうぶ)とは、戦国時代などの戦いの様子を描いた屏風絵です。武将や兵士の動き、戦場の様子が生々しく且つ詳細に描かれていて、歴史や戦術を学ぶ手がかりとしてたいへん有用な資料となります。例えば、重要文化財『関ヶ原合戦図屏風』などが有名です。これに関しては、最近の技術を用いて、武将や兵士がアニメーションのように動くデジタルアートも制作されています。関ヶ原の合戦は両軍合計十数万人の軍勢が激突し、戦況は変化するのですべてを描くことはできません。しかし、関ヶ原の合戦から間もない1603年頃に制作され、将兵一人ひとりが丹念に描かれたこの屏風絵は、時代考証の貴重な資料となっています。筆者はこれにヒントを得て、特許がもたらす企業間の競争を臨場感豊かに描く特許版合戦図はできないかと考えました。この着想が、後に特許戦略チャートⓇの開発につながりました。

ところが、第四の問い「現実世界のどのような戦いが、特許版合戦図のモデルとなり得るのか?」その答えが出るまでには、長く険しい道のりが待っていたのです。

3.特許がもたらす企業間の競争を特徴付けるキーワード

合戦図屏風の着想を得たものの、具体的なモデルを見つけるまでには、さらに長期にわたる思考の旅が必要でした。旅の初めから、関ヶ原の合戦は特許がもたらす企業間の競争のモデルとなり得ないことは認識していました。東軍と西軍に分かれてそれぞれの総大将の首をかけて戦うパラダイムは、特許の世界に馴染まないことを理解していました。しかしながら、そもそもの着想が合戦図屏風だったことから、モチーフ探しは特に意図はなく古今東西の地上戦の戦記にひとつずつ当たっていくことから始めることになりました。その作業は予想外の長期間に及び、結果的に違う場所に行き着きましたが、思い返せば無駄ではありませんでした。満足のいかないものばかりで具体的な道筋はなかなか見えてきませんでしたが、「この方向は違うな」という消去の積み重ねにより、漠然とした認識でしたが可能性が絞られてきました。同時に、消去するたびにパラダイムを設定するためのキーワードが残されました。ここでは詳細な解説を割愛しますが、以下にそれらを列挙します。

【パラダイム(枠組み)】

・ゲームの本質・世界観:空間的構造、価値観の構造

・Good/No Good:何を求めるか、何が望ましいか、利益/不利益

・「軸」と「極」の観念:ポジションの高低

・全体/局所:スコープの広狭により異なる意味・解釈

・相対的位置関係>絶対的位置関係:競合との相対的関係が価値を左右する

・コンテキスト×タイミング×距離(近/遠):次の一手の意味・価値

・密度(密>疎):フィールドにおける意味の重み

【目的】

・ポジションの確保

・プレゼンスの増大

・制圧域の拡大:数の力による領域的支配

・距離をとって追従

【効果】

・警戒

・牽制

・協定(ライセンス)

・支配/服従

・掃討

【構成要素】

・主体、客体1(競争の実体)、客体2(手段)

・競争の実体

・排他手段、排他的効力

・非唯一性:無体物

・射程(範囲):特許の権利範囲

・方向(旋回角):特許の適用方向・技術領域

・最大射程(距離)

・その他、種々の外部要因

【アクション】

・調査分析

・追跡調査

・文脈、経緯

・シナリオ

・戦略(稀に戦術)

・監視

・間合い(リスクを回避する適切な距離感)

・にらみ合い(緊張状態)

・戦力の行使(係争状態)

【時間経過】

・短期(週単位)

・中期(月から1、2年)

・長期(2~20年)

・恒久(終期は不設定)

4.辿り着いた競争モデルとは

前述のキーワード群の親和性を念頭に、クリアランス調査の実務を重ねる中で、特許がもたらす企業間の競争にうまく適合しうるモデルの探索は、終わりが見えないライフワーク化していました。しかし、ある時、探していた鍵が見つかり、ガチャッと錠が開くように、ついに答えが見つかる瞬間が訪れました。それは、NHKのあるドラマのワンシーンを見た時であり、全く予想していなかった出来事でした。そのドラマとは、日露戦争を描いた「スペシャルドラマ坂の上の雲」(全13回/2009~2011年放送)の最終回でした。実は、その10年以上前、筆者が知財業界に足を踏み入れていなかった頃に原作小説を読んだことがあり、テキスト情報による知識はもっていたはずでした。しかし、映像として見せられた時、初めてすべての点(キーワード)が有機的に繋がり、立体的な像が浮かび上がった現象を感じたのです。旅を始めてから3年以上が経過していました。

詳細な説明は、またの機会にさせていただきますが、当該モデルをひと言で言い表すと、「海戦モデル」です。日露戦争は中国東北部(満州)から朝鮮半島での陸上戦が続いていた一方で、大規模な海戦もありました。ドラマでも陸上戦のシーンが続いたのですが、最終回で日本海海戦を臨場感たっぷりに描いたシーンが映し出されたのです。

特許がもたらす競争において、主体は意思決定者(経営者・担当役員)とそれを支える知財部長及び知財部員のチーム、競争の実体である客体1は商品・サービス、それを保護する手段客体2が特許です。これを海戦に当てはめると、主体は艦隊司令長官(ドラマ中の演者は渡哲也さん)と参謀たち(ドラマ中の演者は草刈正雄さん、本木雅弘さんら)、客体1は艦船(戦艦三笠など)、客体2は艦搭載の大砲。見事なほど対応することに気づいた時、これは正に特許がもたらす企業間の競争のパラダイムに一致する、と腑に落ちる感覚がありました。(出典:国立公文書館アジア歴史資料センター日露戦争特別展Ⅱ>日露戦争、海戦の「図」

海戦では、地形の影響が無いぶん、艦船の位置関係、大砲の射程、敵艦との距離、戦況の変化が一目で把握できます。特許戦略チャートⓇは、商品・サービスの位置、特許の射程(権利範囲)、競合との距離、時間経過による変化を視覚的に表現するツールです。つまり、海戦モデルを用いて可視化することで、複雑な特許情報を「戦場の様子」として一目で理解できるようにするのです。経営層や事業部門が、まるで合戦図屏風を見るように、特許がもたらす企業間の競争を臨場感豊かに把握できるようになります。これにより、経営層や事業部門は「見える化」された総合的な情報を基に、戦略的な意思決定を行えるようになるのです。

なお、最後に特筆したい点があります。見つけるまでに3年余りかかった苦労話ではありません。その後、特許を国際出願し、審査の中間対応をしたり、文献や展示会を目にしたりする度に、代替しうるモデル、より優れたモデルがないか、ずっと注意を払い続けてきました。しかし、現在でもこのモデルが最良の手段であろうという認識が一貫していることです。もしかして、代替しうるモデル、より優れたモデルが今後登場するかもしれません。しかしながら、少なくともそれと十分並び立って行ける特許戦略チャートⓇのポテンシャルについては、自信を持っております。

ここまでお読みくださった貴方は、クリアランス調査(侵害予防調査、FTO調査)で見つかった注目特許の情報をどのように把握されているでしょうか?その情報には、かかった手間に十分つりあう高い価値があるはずです。しかし、自社の商品・サービスと特許との関連性、自社のみならず、競合他社のそれらの関係性、現在までの動向と将来のシナリオ等が包括的に整理され、いつでも引き出して検討材料として使える状態にしていらっしゃいますか?そして、経営層などの上層部、経営企画部や商品開発部などの事業部門、研究開発部門と同一の情報を共有し、意思疎通が良好に行える関係を構築できていますか?

もし、それらの点で課題を感じておられるなら、特許戦略チャートⓇがお役に立てるかもしれません。本記事で紹介した「海戦モデル」を基に、特許がもたらす企業間の競争(ポジション争い)を臨場感豊かに可視化するツールです。詳細は、お問い合わせいただければ、個別にご説明いたします。まずは、お気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

株式会社デジタルキロン
代表取締役

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